本棚に敷き詰められた本

2019年芥川賞・直木賞を受賞した作家の作品と経歴

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2019年の芥川賞今村夏子さん直木賞大島真寿美さんが受賞しました。
第161回となる2019年の芥川賞・直木賞の選考会は東京築地の料亭「新喜楽」で開かれ、小川洋子さんや桐野夏生さんらが選考委員を務めています。
受賞作家の今村さんと大島さんがどのような作家で、どんな作品を生んできたのか、経歴を辿ってみましょう。

芥川賞作家となった今村夏子さん

今村夏子さんは「むらさきのスカートの女」(小説トリッパー春号)で2019年の芥川賞を受賞しました。
「狂気を突き抜けた先にある、独自の哀れさみたいなものを書ける人」と選考委員の小川洋子さんは評価し、芥川賞は文句なしの決定だったと話しています。

・受賞した作品の概要
いつも紫色のスカートをはいている、周囲の住民から変人扱いされる女性と友達になりたがっている主人公「わたし」の視点で描かれる中編作品です。
物語が進むにつれて、変人扱いされている女性に執着する「わたし」の異常性が浮かび上がってきます。

・今村夏子さんはどんな人?
1980年に広島市に生まれた今村さんは、2010年の太宰治賞受賞作を改題した「こちらあみ子」で2011年に三島賞を受賞しています。
芥川賞を受賞した際の記者会見では、「手の届かない、一生取れないものだと思っていた。本当に驚いたし、うれしいです」と緊張しながらも微笑んでいました。

デビューから9年の苦労を尋ねられた今村さんは、「小説を書くことはつらいし、嫌だと思うときの方が多い、集中して書いていると自分がなくなる感じがある。その一瞬の楽しさが味わいたくて書いている」と語っています。

・今村さんの作品
大阪の大学を卒業後、ホテル清掃のアルバイトなどを続けていた今村さんは、突然アルバイトをクビになったことをきっかけに小説を書き始めたことでも知られています。
「あたらしい娘」で2010年に太宰治賞を受賞し、同作を改題した作品と新作の中編を収めた「こちらあみ子」で2011年に三島由紀夫賞を受賞しました。

「こちらあみ子」には、幼少期の故郷の思い出も盛り込まれて広島弁も登場します。
天性の才能を持っていると評される今村さんは、「世界文学レベルの人」と称されたものの、デビュー後しばらくは作品を発表しない時期が続いていました。

デビュー作で傑作を書いてしまうと、多くの作家は書かなくなってしまいがちと言われています。
そんな中、今村さんは翻訳家で作家である西村憲氏から「自分の楽しみのためだけに書いてください」という依頼を受けて2016年に「あひる」という作品を書き上げました。

次々に入れ替わるあひるが媒介となり、大人と子供たちが不穏な交渉を繰り広げる「あひる」は芥川賞の候補に挙がり、短編集「あひる」は、第5回河合隼雄物語賞を受賞しています。
2017年には「星の子」が芥川賞候補となっています。

「星の子」では、宗教にのめり込んでいく両親を持つ中学3年生の少女の視点で、崩壊していく家族の姿を描いています。
何度か芥川賞の候補となりがら惜しくも受賞を逃してきた今村さんは、今作「むらさきのスカートの女」で芥川賞受賞を果たしました。

・今村作品の魅力
純文学には一読するには難解な作品が多い中、今村作品は子供の登場人物も多く児童文学を彷彿とさせる雰囲気があります。
文章は平易な言葉で構成され、リズムよく物語が進みます。
しかし、誰でも読める文章でありながら、誰もが謎に包まれる怖さがあり、何かが隠されているようなホラーにもなりうる点に魅力があると言えるでしょう。

 

直木賞を受賞した大島真寿美さん

2019年の直木賞に決まった大島さんは、「渦 妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん) 魂結(たまむす)び」(文芸春秋)という作品での受賞です。
直木賞は2019年の候補作いずれも水準が高く票が割れたと選考委員の桐野夏生さんは語っています。

良作の中でも、大島さんの作品は「柔らかな大阪弁の語り口がすばらしい。近松半二の著述を巡る戦いがとてもリアルに書かれ、同じ実作者として分かる」と高い評価を得ています。

・受賞作品の概要
「渦 妹背山婦女庭訓魂結び」は、伝統芸能の浄瑠璃作者として江戸中期に活躍した近松半二の人生を描いた長編です。
歌舞伎の人気に押されて、苦境を強いられた浄瑠璃の起死回生を狙って大作を手がける近松半二たちが、虚実の渦に取り込まれいていく様が描かれています。

主人公の近松半二は父親の影響で浄瑠璃の世界に入り、作品は半二の目線で道頓堀の熱気とともに描かれます。
中学生の頃から歌舞伎が好きだった大島さんは、妹背山婦女庭訓なら何かが書けると思え今回の作品を書き上げています。

・大島真寿美さんはどんな人?
1962年生まれの大島さんは、名古屋生まれで現在も名古屋に住んでいます。
1992年に「春の手品師」で文学新人賞を受賞し、2011年には本屋大賞3位を獲得しています。
今回の受賞記者会見では「びっくりしている。あまり実感がない」と引きしまった表情で話しています。

受賞した作品に関しては、「語りを書くのが気持ちよかった。この世界をまた書きたい。文楽は本当に素晴らしい芸術だし、次の世代にちゃんと残していかなければならない。」と語っています。
直木賞の候補には2回なっており、今回の受賞に到っています。

・大島さんの作品
愛知県内の高校在学中から執筆を続ける大島さんは、1985年より劇団の脚本・演出を担当していました。
小説家へと転身して新人賞への応募をスタートした大島さんは、1992年に「春の手品師」で文学界新人賞を受賞しました。
映画「チョコリエッタ」やテレビドラマ「ビターシュガー」など映像化された作品で知っている人も多いでしょう。

「チョコリエッタ」では、高校2年生の知世子が進路調査に犬になりたいと書いて呼び出しをくらう、夏の日々を描いた作品です。
代表作と言える2011年に書かれた「ピエタ」は、18世紀ヴェネツィアの孤児のためのピエタ慈善院に、音楽教育をしていたヴィヴァルディの訃報が届くところから物語が始まります。
生きる希望と絶望、恩師の実像と虚像などの対比も美しい作品として愛され、本屋大賞3位を獲得しています。

2007年の作品「ふじこさん」は、離婚寸前の両親に取り合いされる小学生が、父親の愛人に惹かれていく物語です。
周りの人間に対しての違和感を感じる主人公に自己投影しながら、あっという間に読めるテンポの良さ、そして優しい読後感がある作品となっています。

「やがて目覚めない朝が来る」も2007年の作品です。
個性豊かな魅力ある大人たちに囲まれて成長していく主人公が描かれています。
静かな語りで穏やかに流れる時間と人生の美しいきらめきが描かれ、不思議な読後感に癒されます。

2014年に直木賞の候補となった作品が「あなたの本当の人生は」で、現実と幻想が入り混じったようなストーリーが注目されました。
書けなくなった大物作家のホリー先生と秘書たちの物語で、書くことを仕事にした人々の人生が語られています。

・大島作品の魅力
文章全体が柔らかく上品な点が大島作品の魅力として評価されています。
文体はリズミカルで、時代を生きる人々の姿を鮮やかに切り取る作品の数々が多くの人を魅了します。

今回、直木賞を受賞した「渦 妹背山婦女庭訓 魂結び」も、人形浄瑠璃の公演を生で観たことがない人でも、頭の中で鮮やかに浄瑠璃作品が浮かび、気が付くと浄瑠璃の世界の大きな渦に取り込まれると評されています。
心地良いうねりを感じながら、リズム良く流れるように読め、作品にのめり込む人が続出しています。

 

 

 

 

 

2019年の芥川賞・直木賞は、両方とも女性作家が受賞する結果になりました。
直木賞は80年を超える歴史で初めて候補者も全て女性であり、女性作家が躍進していることがうかがえます。
ぜひ、芸術性に重きを置く芥川賞、そして娯楽性に重きを置く直木賞の最新受賞作を手に取ってみてください。

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